本研究は、論理回路をはじめとする各種の計算モデルに対して、計算機援用型の計算困難性証明手法の確立を目指すものである。本年度の研究実績は主に以下の3点である。 (1)定数段数論理回路モデルにおける、多数決関数を近似する回路のサイズについて研究を行った。その結果、これまで知られている最良の下界がすでにタイトであることを、これに等しいサイズの確率的回路を実際に構成することにより示した。これは、Valiantによる多数決論理式の構成法を一般化することによって実現したものである。本結果は、欧州における最高レベルの国際会議であるICALPにおいて発表した。(2)同じく定数段数論理回路モデルについて、最近、Rossmanによって新たに開発された下界証明手法を用いて示された、クリーク関数の下界が、すでにタイトであることを、これに等しいサイズの決定的回路を実際に構成することにより示した。また、新手法をハイパーグラフにおけるクリーク関数に適用することにより、より、厳密な計算量の評価が可能であることを明らかにした。この結果は、計算量理論分野における権威ある国際会議であるCCCにおいて発表した。(3)乱化決定木で論理関数を評価する際における、指向性の制約が計算量に与える影響について調べた。特に、CNF式をベースにした対象関数について計算機を用いて系統的に調査することにより、これまで知られるものよりも大きな影響を与える論理関数の具体的な構成法を与えた。この結果は、国際会議CATSにおいて発表した。
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