本年度は、主にインターネットのような複数のエージェントが相互作用する環境で起きる問題に対し、そのヒューリスティック解法の設計に取り組んだ。取り上げた問題は(1)分散環境における類似検索、(2)TCPコネクションの収束性改善の2つである。(1)は探索のためのデータ構造を複数ノードにうまく分散配置して検索性能を向上する問題である。(2)は開始時刻が異なる複数のTCPコネクションが混在する状況で、後から開始したコネクションのスループットを既在コネクションのスループットに短時間で追いつかせるのが目的である。 (1)についてはLocality-Sensitive Hashing (LSH)という類似探索アルゴリズムを分散環境に適用する方法を検討した。LSHは複数のハッシュテーブルを用いる手法であり、各ハッシュテーブルを別々のノードに配置するのが自然な分散化方式となる。しかし、この方法では検索時にハッシュテーブル数と同数のリモートアクセスが発生し、応答時間が長くなる。そこで本研究では、異なるハッシュテーブルに属するハッシュバケツであっても、それらが似たデータを含有するのであれば適応的に同一ノードに格納する方式を考案した。提案方式では複数のハッシュバケツへのアクセスを一回のリモートアクセスで実現できるのが利点である。シミュレーションにより類似検索時のリモートアクセス回数が減少することを確認した。22年度は、本成果の成果発表およびシミュレーション結果の実機での検証を行う。 (2)に関してはパケットロスを起こせば起こすほど収束性は向上するという性質は判明したが、パケットロスを頻発させるプロトコルは現実的でなく外部発表できるレベルに至らなかった。このトレードオフは解決が難しいので、現在は目標を「収束性向上」から「安定時のスループット公平性向上」と変更しして研究に取り組んでいる。 また、外部からの入力との相互作用があるアルゴリズムの評価モデル設計の準備のため、最新のゲーム理論に関する動向調査も行った。
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