本年度は、前年度に続き、複数エージェントが相互作用する環境で起きる2つの研究課題を取り上げ、課題を解決するアルゴリズムの設計評価に取り組んだ。 1つ目の課題は複数のTCPコネクション間のスループットの公平性向上である。この問題はアグレッシブさの異なるTCPコネクションが共存する環境で、それらの間でスループットが不公平にならないようするのが目的である。本研究では、近年提案された、ルータにおける輻輳制御手法であるAQMをエンドホストで実現するAQM Emulationと呼ばれる技術に着目した。ルータでのAQMではルータを通過する多数のコネクションが処理対象であるのに対し、AQM Emulationはエンドホスト内で実現されるので処理対象が1エンドホストからのTCPコネクションだけである。本研究ではこの特性に着目し、各エンドホスト内で、AQMエミュレーションの幅輳制御をそのホストからのTCPコネクションのアグレッシブさに適応して変化させる手法を提案した。そして、ns-2を用いたシミュレーションにより、提案手法がルータにおける標準的なAQMであるRED(Random Early Detection)よりTCPコネクション間の公平性を改善できることを示した。本成果は電子情報通信学会情報ネットワーク研究会にて成果発表を行った。 2つ目の課題はLSH(Locality-Sensitive Hashing)という類似検索アルゴリズムの分散環境での効率的な実装方法の探究である。LSHでは類似検索時に複数ハッシュバケツへのアクセスが発生するので、本研究では、アクセスされるバケツ群をなるべく同一ノードに配置しリモートアクセス回数を減らして類似検索の応答時間を短縮させる手法を前年度に提案している。今年度は、提案手法がリモートアクセス回数を抑制できるというシミュレーション結果をDEIM2011にて成果発表した。また、socket APIを用いた実機実装を進め、1台の計算機内でマルチプロセスで実行できるようにした。来年度はこれを今年度購入したPCクラスタに移植し、実機での評価を完了させる。
|