可逆コンピューティングは物理的可逆性を反映した計算パラダイムであり、原子や分子レベルの物理現象を直接利用して高集積度の計算機デバイスを作ろうとしたときに鍵となる。本年度は、可逆コンピューティングの理論の体系化を昨年度に続いて行うとともに、記憶つき可逆論理素子間の能力の階層の解明、および可逆マルチヘッドオートマトンの計算能力の特徴づけについて研究し、以下の成果を得た。 1.可逆コンピューティングの理論の体系化 物理的な可逆モデル、可逆論理素子、可逆論理回路、各種可逆計算機モデルなどについて、それらの性質や計算能力の関係を明らかにし、理論の体系化を進めた。これらの成果は雑誌の解説論文や国際会議講演として発表するとともに、和文単行本「可逆計算」(2012年)にまとめ、出版した。 2.2状態可逆論理素子の能力の階層性 非縮退の2状態k記号可逆論理素子は、k>2の場合あらゆる素子が計算万能になるという結果が前年度に得られているが、本年度は3種類の2状態3記号可逆論理素子の非万能性を示し、2状態素子の能力の階層性を導いた。 3.可逆マルチヘッドオートマトンの計算能力の解明 前年度に提案した可逆マルチヘッドオートマトンが通常の決定性のものと等能力になること、つまり可逆性制約を課しても能力が下がらないことを証明した。この証明手法の応用として、記憶量S(n)の決定性チューリング機械を、同じ記憶量S(n)の可逆チューリング機械でシミュレートする簡潔な手法を与えた。
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