研究概要 |
本研究の目的は,申請者の提案による代数的手法に基づき,1次元セルラーオートマトンのための,状態数が世界で最少の同期アルゴリズム(プロトコルとも呼ばれる)を開発し,多次元アレイ結合セルラーオートマトンへの応用を目指すものである. 本年度は,代数的セルラーオートマトンをベースとする1次元リングアレイ上での4状態解を探索するプログラムを作成し,17個の解が存在することを明らかにした.最適時間アルゴリズム,線形時間アルゴリズムの設計,初期の将軍状態の位置を任意に設定する一般化FSSP問題に対する4状態解に関する手掛かりもつかむことができた.これらの解は内部状態を相互に入れ替えることにより,別の解に転移することからある種の相補的な関係にあると推測されるが,全容の解明には至っていない.試算ではさまざまなタイプの1次元アレイ上のFSSP問題に対しても,多数の4状態解の存在を把握している.さらに5状態の3n+0(1)ステップアルゴリズムも開発した.これはセル空間のサイズに関して制限つきではあるが,その制御構造は非常にsimpleなものである. 次に2次元アレイ上における最適時間解を得る.本アルゴリズムは2次元アレイを回転型L字アレイに分割し,それらの上で通常の1次元FSSPアルゴリズムを動作させるもので,2次元アレイ上におけるこれまでの最適時間最小FSSP解として,長方形アレイに対してUmeo et al. [2006, LNCS 3699]の12状態アルゴリズムが,正方形アレイに対してUmeo et al. [2002, LNCS 2493]の9状態アルゴリズムが最小のものとして知られているが,上記の代数的な手法を適用することにより,より状態数の少ないFSSP解が得られる可能性はきわめて高い.多次元アレイに対しても同様なアプローチをとり,2次元,3次元アレイに対して再帰的2分割マーキングを利用することにより,従来から知られていたアルゴリズムとは全く違った動機アルゴリズムの開発に成功した,現在同アルゴリズムの計算機上への実装を試みており,おおむね最適時間で踏査する見通しとなっている。これらの研究成果は平成22年度の国際会議で発表する予定である さらに代数的手法と従来から知られている幾何学的な手法を併用し,両者の利点を生かしたFSSPアルゴリズムの設計に着手し.現在進行中である.申請者が先にUmeo and Kamikawa [2002,2003], Umeo et al. [2007]等で提案している1-Bit CA(隣接するセル間で1ビット/1ステップの情報交換が可能なセルラーオートマトンで,従来から数多くの研究がなされているセルラーオートマトンのサブクラスに位置する)上で代数的な手法に基づくFSSPアルゴリズムを設計する.1-Bit CAは1ステップあたりのセル間の通信容量が1-bitに制限されているにもかかわらず,Umeo and Kamikawa [2002,2003], Umeo et al. [2007]において,素数,Fibonacci数列など従来から実時間生成が非常に困難とされてきた数列の生成問題が1-bit通信のみでも実時間で生成可能であることを明らかにした.しかしながらこれらの成果は幾何学的な手法によるものである.代数的な手法を利用することにより,上記の数列生成問題を解決する新しいアルゴリズムが期待される.実時間素数生成に関しては,従来よりも大幅に状態数を削減することに成功し,これについても発表を準備中である.
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