研究概要 |
本研究の目的は,代数的手法に基づき,1次元セルオートマトンのための,状態数が世界で最少の同期アルゴリズム(FSSP : Firing Squad Synchronization Problem, プロトコルとも呼ばれる)を開発し,多次元アレイ結合セルオートマトン上への応用を目指すものである.本年度は,昨年度に引き続き代数的セルオートマトンをベースとする1次元リングアレイ上での4状態解を探索し,新しい解が存在することを明らかにした.FSSP解を特徴付けるセルオートマトンの性質として,Number-Conserving Cellular Automaton(NCCA), Inner-Independent Cellular Automaton(IICA)を考案し,これらのCA上で動作するFSSP解の設計に成功する.NCCAに対するFSSPアルゴリズムの時間計算量において,種々の制約下でのlower boundも明らかになりつつある.2次元アレイについても同様な考察を行い,解の存在とその実装を実現しつつある.1次元IICAのFSSP解は,2次元長方形並びに正方形アレイの最適時間FSSP解の設計に有用であることが明らかになった.次に2次元アレイ上における最適時間解を統一的な観点から見直し,整理する.これは昨年度からの継続的に行ってきたことで,square array, rectangular arrayのそれぞれに対して,統一的な視点から多数のアルゴリズムを分類するとともに,より一般化したアルゴリズムを設計した.さらに新しいタイプのFSSPアルゴリズムを開発する.正方形アレイに対してUmeo et al. [2002, LNCS 2493]の9状態アルゴリズムが最小のものとして知られているが,新たなZebra Mapping手法を適用することにより,より状態数の少ない7状態のFSSP解が昨年度得られた.このFSSP解は申請者がイタリアで開催したセルラーオートマトンのACRI 2010国際会議で発表され,昨年度から引き続き論文として発表すべく準備中である.本手法はsquare arrayで有効であったが,今年度rectangular arrayにも適用可能なように拡張することが可能となり,長方形アレイに対して9状態のFSSPアルゴリズムの設計に成功した.また2次元,3次元アレイに対して再帰的2分割マーキングを利用することにより,従来から知られていたアルゴリズムとは全く違った同期アルゴリズムの開発に成功した.同アルゴリズムの計算機上への実装を行い,384状態,112690個の遷移ルールから構成されることが判明した.これらは2つの国際会議CiE 2011並びにHPSC 2011にて公表された。申請者が先にUmeo and Kamikawa [2002, 2003], Umeo et al. [2007]等で提案している1-Bit CA(隣接するセル間で1ビット/1ステップの情報交換が可能なセルラーオートマトンで,従来から数多くの研究がなされているセルラーオートマトンのサブクラスに位置する)を通信手段とする2次元CA上でのFSSPアルゴリズムを設計し,これらは国際会議PaCT 2011で公表された.最終年度の研究としておおむね順調に進展したと考えている.
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