研究概要 |
本年度の成果のうち、研究実施計画における第一の目標、すなわち、昨年度の結果を進展させる研究に関わるものは以下の通りである。1.本研究における主要な計算手段である安定化理論について、昨年度提案した新しい利用法であるISCZ法(係数を区間とシンボルのペアとし、ゼロ書き換えの正しさをチェックする手法:Interval-Symbol Method with Correct Zero Rewriting)を凸包構成アルゴリズムに適用した実験を行い、有効性を確認した。2.重要な問題である近似因数分解に利用可能な、与えられた因子を持つ多項式列の性質の解明について、実数係数の場合に昨年度得た結果を複素数係数の場合に拡張した(投稿中)。 研究実施計画における第二の目標、すなわち、係数に誤差のある場合の連立代数方程式に関わる成果は以下の通りである。1.二変数で式が二本の連立代数方程式f(x,y)=g(x,y)=0に解があると仮定する。f、gの係数をどれ程動かすと解が存在しなくなるか、その限界を、fとgの終結式を用いて評価する手法を提案した。2.f_i(x^1,…,x_n)(1≦i≦n)を実数係数のn変数多項式とする。連立代数方程式f_1=…=f_n=0において単純な孤立実数解が存在する場合に、f_iの係数をどれ程動かすと単純な孤立実数解が存在しなくなるか、その変動の限界を評価する手法を提案した。具体的には、f_1=…=f_n=0の単純な孤立実数解のうち、注目しているものをx^<(o)>とするとき、x^<(0)>を初期値とするNewton法が単純な孤立実数解に収束するような係数変動の限界を、Kantorovichの定理を利用して評価する。孤立解の存在する連立一次方程式を、行列Aとベクトルx、bを用いてAx=bと書くとき、孤立解が存在するような係数変動の限界は行列Aのノルムと条件数を用いて表現できるという、数値線形代数における既知の結果がある。本成果は、この結果の拡張にあたるといえる。
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