従来の振幅方向ではなく、時間軸で情報を表現するパルス幅変調(PWM)方式および高効率符号化技術に基づく微細MOS回路技術の基本構成要素の検討を行うと共に、その高速信号伝送技術への応用に関する検討を行い、「配線設計主体の集積回路の高性能化」の有効性を検証した。H22年度の主な研究成果は以下の2点にまとめられる。 [1]時間軸領域に情報を有するPWM信号を用いた高速信号伝送技術への応用に関する検討 時間軸領域に情報を有する情報処理システムにおける問題点を明らかにするために、時間情報検出回路の動作速度の評価および微細化による電源電圧の低下の影響等を回路シミュレータで評価した。次に、PWM信号を用いた高速信号伝送技術への応用に関する検討を行った。その結果、VLSIの極限微細化・高速化・低電圧化に伴う劣化信号を補正するための波形等化技術として、パルス幅変調プリエンファシス技術が有効であることを明らかにした。さらに、本方式の多値信号波形等化への適用および高次プリエンファシス方式の検討も行った。 [2]高効率符号化技術を用いた信号伝送とそのチップ間無線通信技術への適用 近年、容量またはインダクタを用いてチップ間を無線通信可能とする技術が提案されている。本課題では、本申請者らが提案しているチップ間無線通信の送受信と同時に波形整形のイコライズを行う回路の共有化を図る技術の応用として、3次元SoCシステムのチップ間高速無線通信方式の実現可能性を検討した。特に、従来のNRZ信号ではなく、Dicodeと呼ばれるデータ符号化方式を採用し、伝送信号をチップ間無線通信伝送路に適したスペクトル形状に符号化することにより、信号が占有する周波数帯域を圧縮可能であることを明らかにした。これにより、Dicode符号伝送が通常のNRZ符号化と比較し、高効率なチップ間情報伝送に有効であることを見出した。
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