研究概要 |
本研究では非熟練者による化学実験実施時の危険回避を対象とし,「スマート実験室」により実験作業を通して安全技能を向上するシステムの設計原理を明らかにすることを目的とする.初年度である平成21年度は,1.危険作業状況把握に必要な情報の特定と把握技術開発,2.注意警告メッセージ検討と提示技術開発,3.異なる実験シナリオに容易に対応可能なソフトウェア基盤開発,を中心に研究を進めた.1に関しては,化学実験専門家へのヒアリングや安全教育の教科書などの分析から,作業台と物品または物品同士の位置関係や物品の特性を考慮することが重要であるという結論に達した.そして物体に貼付した視覚マーカの位置情報から,より高度な作業状況を抽出する方式を考案した.また,専門家より熱情報の考慮も重要であるとの意見を得て,熱画像カメラを購入し基礎評価と実現方式検討を行った.2に関しては,安全知識を定着するための注意警告メッセージング方策として,提示するタイミング・場所・意味の3要素に意図的に多義性を持たせる「3次元多義情報提示法」を考案した.また実験作業卓上に情報を直接表示するプロジェクタ応用システムを構築し,1で得られる位置情報と組み合わせて任意物体の付近(場所的多義性:低)や固定場所(同:高)に情報提示することを可能とした.この実機およびシミュレーションを用いたユーザ評価において,多義性の度合いが高いケースで,提示された注意警告メッセージを記憶し,次回の実験で前回の情報提示を想起できる可能性が示唆された.これにより作業者のシステムへの過度の依存を回避することが期待される.3に関しては,XMLを用いて任意の実験手順に対する3次元多義情報提示を実現するためのソフトウェア基盤を開発した.3種類の異なる手順や使用物品で構成される作業に適用した結果,簡易な記述で多様な実験シナリオに対応することが可能であることを確認した.
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