本研究は、本研究代表者が提案した動画像の動きベクトルに情報を埋め込む手法において、それに適した動きベクトルの変更やマクロブロック(以下MB)選択の方法を実験的に明らかにし、埋め込みによる画質変化を定量的に把握することを目的としている。 情報を埋め込むべき動きベクトルの選択と変更は、絶対値誤差の総和(SAD ; Sum of Absolute Difference)を用いることとした。すなわち、従来動画像符号化においては最小のSADを示す動きベクトルが選ばれるが、これを故意に異なる動きベクトルに変更するという埋め込み方式を想定し、画質に影響が出にくい変更基準について検討した。またMBの選択については、量子化後の差分画像に周波数成分が残っているMBに選択的に埋め込みを行うこととした。 複数の動画像に対し情報埋め込みを行った結果、PSNRの劣化は最大でも30番目に小さいSADを用いたときの0.52dB程度となり、10番目、20番目のSADと比べてもほぼ差がないことが分かった。復号誤り率についても低いSADが数%の誤りを生じるのに対し、30番目では1%以下に抑えられることが分かった(3Mbps時。ビットレートで多少増減)。 また本手法のSAD選択を工夫し、1MBに複数のビットを埋め込む実験も併せて行った。実験の結果復号誤り率は増加するものの、画質の劣化は4ビット埋め込み時でも1dB程度であり十分な画質が保たれていることが分かった。 さらに、H.264/AVCにおいて、フレーム間の動きベクトルだけでなくフレーム内のイントラ予測が符号化効率向上の重要な要素となっている点に着目し、新たな情報埋め込みについて検討した。評価実験により、動画像中のより複雑な領域に対して行われる4×4MB予測において、その予測モードの変更を情報埋め込みに用いることが有効であることを突き止めた。その重要性を考慮して、次年度以降、本研究では動きベクトルによる埋め込みとイントラ予測による埋め込みの手法を併せて検討し、評価実験によりそれぞれの性能を明らかにすることとした。
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