力感覚の錯覚現象の発生条件を調べるため、本年度では、実空間における力の知覚メカニズムの解明に重点を置き、実空間での重さ知覚と上肢の能動的な運動との関連について、心理物理学の手法を用いて検討を進めてきた。具体的には、実験物体の持ち上げの運動時に移動距離と関節拘束に条件を与えて、実空間での挙錘実験を行った。重さ感覚の評価にマグニチュード推定法を用いた。実験で得られた重さの評価結果に対して各実験条件での心理物量関数、心理測定関数、様相特性指数の解析を行うことによって、重さの知覚と上肢運動との関連を定量的に評価した。解析の結果から、重さ感覚と呈示刺激とほぼ線形関係が確認された。また、心理測定関数より重さ知覚に関わるシステム感度を定量的に評価した。さらに、各実験条件におけるモダリティ固有の値と言われる様相特性指数を算出したことによって、S. S. Steven氏が従来に提案したべき法則の感覚パラメーターの数値結果を得た。 運動距離については、運動距離が大きくなるにつれ、システム感度が高くなる傾向が得られており、様相特性指数に関しても、運動距離によって比例して大きくなる傾向が示されたため、運動距離と力感覚との高い関連性を明らかにした。また、肘関節の拘束に比べて多関節を利用する自由運動のほうがより高いシステム感度が示された。これらの結果から、上肢運動に関わる上肢筋肉の活動と深く関連していることがわかった。運動を行うことによって物体に発生する慣性エネルギーが大きくなり、筋繊維に求心性に与える刺激が大きくなるため、物体の重さを知覚しやすくなったと考えられる。これらの結果を用いて、今後に引き続き検討していく。
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