本研究では、図書館における理論と実践の融合の一形態として、分析書誌学の図書館システムへの応用の過程と実際を実証的に考察し、書物研究の流れの中にこれらの実践を意義づける。平成21年度は、主にロンドンのセントブライド図書館(以下SB館)にて資料組織化の実態を調査した。同館分類法は、ニューヨークのグロリアクラブ図書館(以下GC館)分類法の主題領域の枠組に、プロクター分類法(以下PrC)を合成することで、資料の印刷史的体系化を実現するものである。SB館は、第2次大戦後、著しい経営危機に直面したためインクナブラを売却し、近現代における印刷技術分野の資料収集に重点を移した。そのため、活字の実例や試刷、印刷機模型、デザイン案、イラスト原図、写真、パンフレット、新聞記事など図書以外の資料も多く、これら多種多様な全資源はプロクター分類法によって体系化されている。まず、SB館分類法の特徴を理解するため、収集した文献をもとにGC館分類法やデューイ十進分類法を参照しつつ全体の構成を分析した。次に、SB館を訪問し資料体系の実際を検分した。ロッシュ現SB館長へのインタビューを通し、同館分類法を考案した初代館長ペディーの意図を確認した。書物愛好家団体によって設立されたGC館は、主として書物デザインや書物制作の専門家を対象とした図書館をめざしたが、印刷研究所付属図書館として設置されたSB館は、書物研究者向けの専門図書館を企図していた。このため、SB館分類法では、歴史的な細分箇所においてプロクター分類法が有効と判断されたと考えられる。現在、ほとんどの資料が閉架式の同館の場合、実際の書架上の分類は資料形態や書架スペース等により部分的編成替えはあるが、目録上の書誌分類においてはPrC応用の明確な全体像を具視することができる。
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