平成22年度は、大英博物館のプロクターとジョン・ライランズ図書館長ダブに関する補足調査、および、分析書誌学の創始者の一人であるオランダのホルトロップの調査を中心に行った。 初期印刷本を対象とした分析書誌学の成果は、書物史研究を大きく発展させた。特に、プロクターによって行われたインキュナブラの大規模な活字研究は、印刷の歴史地理的な発展プロセスを描出する結果となり、科学的手法にもとづいた書物研究の実現に大きく貢献したと評価されている。しかし、プロクターの研究上の師でもあり友人でもあったダブについては、これまであまり取り上げられることはなかった。そこで、プロクターとダブの学術的な影響関係について調査するため、ダブが図書館長を勤めていたマンチェスター大学ジョン・ライランズ図書館を訪問した。当該館に保管されているダブの書簡や未刊行の原稿、また彼の編纂したカード目録などを通して、ダブも比較的早い段階から初期印刷本の歴史地理的編纂に強い関心を持っていたことがわかった。 また、分析書誌学のもう一つの発祥地であるオランダ訪問を実施した。これまではロンドンを中心とした分析書誌学の流れを見てきたが、その源泉をより詳細に見ることの必要性を認識するにいたった。そこで、当該分野の創始者の一人であるホルトロップが館長を勤めていたハーグ王立図書館を訪問し、ボルトロップの編纂による、オランダ低地地方のインキュナブラ目録の閲覧ならびに関連資料の収集を行った。ボルトロップが当該目録を作成した当時は、インキュナブラの多くはまだ正確な書誌事項が判明していなかった。そうした状況の中で、インキュナブラの編年順目録の編纂に着手したことは斬新で画期的であり、その後の分析書誌学の方向性を決定付ける重要な試みとなったものと思われる。
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