室町時代後期に、清原宣賢によって書かれた漢文『蒙求』についての注釈書である各種の抄物の引用関係を明らかにすることで、清原宣賢の学問のあり方、さらにそれにより当時の学問のあり方を解明することが、この研究の目的である。 この目的のため、京都大学図書館蔵本『蒙求』(上中下)の本文、及びそれに加えられた清原宣賢による頭注、脚注の電子化を行った。また、あわせて清原宣賢による『蒙求』の注釈書である、慶応大学図書館蔵本『蒙求聴塵』(上中下)、宮内庁書陵部蔵本『蒙求抄』(全7巻)、市立米沢図書館蔵本『蒙求抄』(上中)の電子化を行ない、引用関係の確認を行った。 その結果判明したのは、漢文『蒙求』に書入れられた注記から『蒙求聴塵』へと、同じく漢文『蒙求』書入れ注記から『蒙求抄』へと改編されていく様子であった。特に、現存する『蒙求抄』諸本を細かに検討した結果、書写された『蒙求抄』の行間に新たな注記が書入れられる。その行間の注記を本文に組み入れ、また新たな『蒙求抄』が作成される。さらに、その新たな『蒙求抄』の行間にも新たな注記が書入れられるという、いわば「増殖するテキスト」として、『蒙求抄』が存在することであった。さらに、このような「増殖」は、『蒙求抄』にかぎらず、漢文『蒙求』への書入れ注記、『蒙求聴塵』でも見出せる特徴であった。これは、学問が新たな知見・知識を追加する作業であるなら基本的で、当然な作業であるといえよう。ただし、我々に与えられるは文献は「増殖」の終わった文献であり、今回は複数の文献を対照することで、その「増殖」の様相を明らかに出来た。 なお、作成したデータはhttp://www. gijodai. ac. jp/user/sumiya/kaken. htmにて公開した。
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