研究概要 |
エージェンシー感とは「行為を行ったのは自分だ」という主体としての自己の感覚のことである。この感覚はあらゆる体験の根底にある基本的な自己感である。昨年度の研究では,エージェンシー感の潜在指標と顕在指標が異なる処理を反映する可能性が示唆された。本年度はそれを引き継ぎ,順モデルによる感覚結果の予測可能性と先行思考と結果の一致性の双方を独立して操作し,顕在指標(ある刺激を自分が出したかの判断)への影響を調べた。 その結果,両手がかりともに顕在指標に影響を及ぼすことが明らかとなった。つまり,結果が順モデルにより予測できれば,エージェンシー感が高く,また,先行思考と後の結果が一致していれば,エージェンシー感が高かった。また,交互作用があり,特に感覚結果が予測できるときに,先行思考と結果の一致性が顕在指標に強い影響を与えていた。さらに,閾下で結果に関する刺激を提示し,先行思考を意識できない場合でも,それらが結果と一致する場合には,エージェンシー感が高まることが明らかとなった。 以上から,昨年度の研究と併せて,潜在指標である感覚減衰(自己の行為の結果は減衰して知覚される)には,順モデルによる予測と実際の結果の一致性のみが影響を与えるが,意識体験である顕在指標では,先行思考と結果の一致性などの他の要因も影響を与えることが一層明らかとなった。 今後は,こうした多様な手がかりがどのように統合されて,ある行為を行ったのは自分だという主観的な意識体験を作り上げるのか,を検討する必要がある。
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