エージェンシー判断とは、自分自身がどの程度ある行為や結果に対して責任があるかに関する自己内省的な判断のことであり、この内省的な判断は、自分で自分をくすぐっても他人にくすぐられる場合よりくすぐったく感じないなど、より基層にある感覚運動的な行為主体弁別とは区別される。 先行研究では、動作の感覚結果の予測と実際の感覚結果の一致性(感覚運動手掛かり)、先行思考と引き続く結果の一致性など、多くの手掛かりがエージェンシー判断に影響を及ぼすことが報告されている。いまや問題はどのようにそれぞれの手掛かりが統合されるかである。 統合プロセスに関する仮説の一つである2段階仮説では、我々は普段感覚運動手掛かりによって自動的に行為者を弁別しており、予測と結果が一致する場合にはさらなる処理は必要とされずに自分が行為者と感じられるが、一致しない場合に、先行思考と引き続く結果の一致性などの手掛かりを利用したエージェンシー判断がなされるとされている。それに対し最適手掛かり統合仮説では、情報源の信頼性に応じてエージェンシー判断に及ぼすウェイトが異なるとされる。 本年度は、学習試行の有無により、感覚運動手掛かりのエージェンシー判断に対する手掛かりとしての信頼性を操作したうえで、感覚結果と予測の一致性、プライム(先行思考)と感覚結果の一致性それぞれがエージェンシー判断に及ぼす効果を調べ、両仮説の検討を行った。2段階仮説によれば、予測と一致しない結果が得られた場合に先行思考と結果の一致性の効果が見られるはずであるが、それに対し、最適手掛かり統合仮説によれば、感覚運動手掛かりの信頼性が高い場合は、感覚運動手掛かりがエージェンシー判断に大きなウェイトを占めるが、低い場合はプライムと感覚結果の一致性など他の手掛かりが大きなウェイトを占めるはずである。結果は、最適手掛かり統合仮説を支持するものだった。
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