研究概要 |
意味記憶が選択的かつ進行性に障害される意味性認知症(Semantic dementia : SD)では、言語をはじめ様々な意味表象が、進行こ伴う脳変性過程の広がりから、異なる水準で障害されてゆく。本研究では意味記憶の脳内活動を包括的に表象する認知モデルにもとづいて様々な課題を設定し、SD例における課題成績について脳機能形態画像とともに解析す。本年度は初年度として、10例のSD例(平均年齢67.8歳,男性:5女性:5)に対し、語の親密度や読みの典型性、文字(モーラ)数などを統制した具象漢字語80語に対する呼称・理解(聴覚/視覚)・音読・線画連合・語彙判断課題(伏見ら,1998)を実施し、SD例の語彙能力について詳細こ検討した。 その結果、すべてのSD例において、呼称・音読(漢字語)・理解の順に重度に障害され、呼称と音読については低親密度語での低下が一層著明であった。また最も軽度と思われる症例においても線画連合に障害がみられたことから、SDの意味記憶障害は概念そのものの崩壊であることが示唆された。一方、語彙判断は概ね保たれていたが、低親密度語においては多くの症例で障害が生じていた。SDにおいて意味とは直接関連のない語の音韻形式である語形にも障害が及ぶ可能性が示唆された。 今回の検討から、SD例では例外なく重度の意味性失名辞と明らかな表層性失読を呈するが、それに様々な水準で語理解障害さらには概念障害が加わることが明らかとなった。このような語彙を中核とする意味記憶検査バッテリーにより、意味記憶の崩壞過程を定量的に評価することが可能と考えられた。
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