本研究は、マイルカ科の鯨類を対象として、聴覚的、視覚的に呈示された他個体の個体認知や種の認知について検討することを目的としている。初年度である21年度は、主に実験のための装置の準備、実験で呈示する聴覚および視覚刺激の収集と編集、被験動物の馴致・訓練、視覚による種の認知に関する予備実験を行った。聴覚刺激(鯨類の鳴音)および視覚刺激(鯨類の写真)の収集は、国内の5つの水族館および3ヶ所の野外フィールドにおいて行った。また、バンドウイルカおよびハナゴンドウを対象とした視覚刺激弁別実験を九十九島水族館で行うこととし、被験動物の馴致・訓練を行った。TVモニターを用いた視覚実験はこれまで鯨類では行われたことがなく、被験個体の馴致・訓練に2ヶ月を要した。予備実験では、モニターに映し出された映像のどこにイルカが注視しているかを判別することが可能かどうか、検討を行った。その結果、複数のビデオカメラを設置することで、イルカが注視している場所をある程度特定できることが確認され、22年度早々にバンドウイルカを対象として視覚刺激による種弁別の実験を行う運びとなった。実験は、視覚的一対比較課題形式で行うこととし、予備実験では簡単な図形を用いた。なお、本研究に関わる成果の一部を日本哺乳類学会およびマリノサイエンス・フォーラム等において報告を行った。また、昨年度までに行った実験の結果からイルカが聴覚刺激によって個体弁別が可能であることが分かり、現在論文執筆中である。今後は、種弁別実験を進める一方、性弁別、個体弁別に関する実験も行っていく予定である。
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