本研究は、マイルカ科の鯨類を対象として、聴覚的、視覚的に呈示された他個体の個体認知や種の認知について検討することを目的としている。22年度は、21年度に行った実験装置の準備、実験で呈示する聴覚および視覚刺激の収集と編集、被験動物の馴致・訓練、視覚による種の認知に関する予備実験を踏まえて、視覚による種の認知に関する実験、個体の認知に関する予備実験を行った。被験体は九十九島水族館で飼育中のハンドウイルカ1個体であった。実験に先立ち、ハンドウイルカの視線計測が可能かどうか検討を行った。イルカ類では、眼球の構造がヒトとは大きく異なることから、ヒト用に開発されたアイトラッキングを用いることはできない。そこで、CCDカメラで収録したイルカの頭部の向きと視軸から、被験体の視線を推測する方法を用いた。その結果、平均39.6%の確率で視線を推測することができた。実験には、選好注視課題と馴化-脱馴化課題を用いた。選考注視課題では、自由遊泳時の被験体にハンドウイルカの画像と他種の画像を同時に提示し、各画像前の停止注視時間を計測した。馴化-脱馴化課題では、TVモニターを使用してハンドウイルカの画像に馴化させた後、ハンドウイルカと他種の画像合わせて2枚を同時に提示し、注視時間を計測した。その結果、選好注視課題、馴化-脱馴化課題の両方において、ハンドウイルカとは異なる種の画像を長く注視していたことから、ハンドイルカはハンドウイルカと他種を全身画像に基づいて弁別できることが示された。他種間での画像の注視時間に差はみられなかった。本結果は、ハンドウイルカにおいて、視覚刺激に基づいた種の弁別が可能であることを示唆している。なお、本研究に関わる成果の一部を日本動物心理学会等において報告を行った。今後は、ハナゴンドウ、シャチも対象に含め、性弁別、個体弁別に関する実験を行っていく予定である。
|