研究課題
本研究は認知言語学で言う<事態把握>の概念に基づき、日本語話者の<事態の主観的把握>の概念を深化させながら、<事態把握>と「語り」と「読み」の相関を検証するものである。日本語話者の<事態の主観的把握>の傾向は、日本の文芸の独話的な「語り」という傾向をもたらすが、同時にそれを支える共同主観的な「読み」を求める。これは国語科の読解教育における方法論に通じるとともに、<事態把握>の異なる学習者に対する日本語教育における留意点も示唆すると考えられる。21年度は国語教科書の読解教育において<事態の主観的把握>に即した「読み」がいかに養成されるかを教科書・指導書と実態調査によって分析し、冒頭文の語りをデータベース化する予定だったが、中学校教諭の研究協力者2名の出産・育児の時期に重なり、調査の年度内の遂行が難しくなったため、21年度の他の計画および22年度の計画を実施した。すなわち、日本語話者の<事態把握>に関する分析、および外国語話者の<事態把握>の実態調査、それらに関する発表と検討会を行った。その結果、日本語話者の<事態の主観的把握>に基づく「語り」は聞き手との共同主観的な「場」の構築を必要とするが、<事態の客観的把握>の傾向のある、例えば中国語話者が日本語を話す場合、聞き手との関係性の表現の不適切さという形で<事態把握>の異なるが故の問題が現れやすいことがわかり、今後はより多くの言語話者を対象に分析を進め、日本語教育に反映させていく必要性を確認した。一方、<事態の主観的把握>の点で共通する韓国語やトルコ語では、日本語話者と同様の「語り」と「読み」の傾向があることと同時に、動詞「ナル」相当語の存在とその表現の広がりが見られ、このことも「語り」と「読み」とともに<事態の主観的把握>の一つの指標となり得ることがわかり、この観点についても更なる研究が必要であることが確認された。
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