23年度において、本研究はこれまで研究を続けてきた認知言語学の<主観的把握>の概念をふまえて、 1.日本語母語話者(小中学生)に対する「語り」と「読み」をめぐる調査結果を分析し、これら年齢の低い児童・生徒においても事態のく主観的把握>の傾向が顕著に見られることを検証した。 2.<主観的把握>が言語形式-「ナル表現」-と深い相関関係にあることを示し、これを有効な指標として<事態把握>の近似する言語(韓国語・トルコ語)および異なる言語(英語・中国語)の場合を考察し、<主観的把握>に基づく「ナル表現」を指標とする認知類型論的研究の方向性を示した。 1は前年度に日本語母語話者の小中学生に対する「読み」-文章や画像という<事態>をいかに捉えるか-という調査を行い、その結果を分析したものである。彼らの<主観的把握>の傾向が揃って顕著に観察され、それが国語科教育で育まれ、促進されることを検証するとともに、先行研究にある東洋人の傾向に即している点を証明し、認知言語学会のポスターセッションで研究分担者とともに発表した。今後の課題は調査の精度を上げること、いかに言語習得期前期の児童・幼児に対し有効な調査ができるかにある。 2については、認知言語学会でワークショップを開き、研究分担者とともに日本語の「ナル表現」の特徴および<事態把握>と「ナル表現」との相関性を発表するとともに、外国語や古典日本語を研究する複数の研究協力者が各言語の「ナル相当語」を用いた表現と現代日本語の「ナル表現」との形式的・意味的相違に関する研究発表を行い、これを通じて「ナル表現」を指標とした認知類型論的研究の方向性が見えてきた。また、同じ<主観的把握>の傾向のある韓国語・トルコ語でも「ナル表現」の広がり方やその志向性には日本語との相違が見られ、この背後には<主観的把握>内部に「主観性」の度合いと表現の好みに相違があることが示唆され、これにより次なる大きな課題の一つを得た。
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