研究概要 |
私は脳がどうやって時間の長さを計っているのかについて、サルを使って調べている。注目している時間長は認知活動と関係の深い数百ミリ秒から2秒である。実験動物には、2つの視覚刺激(青色か赤色の四角形。1番目をC1、2番目をC2、それからC1とC2の直後の遅延期間をそれぞれD1,D2と呼ぶ。)をそれぞれ異なる時間で引き続いて呈示した後、呈示時間が長い方を選択すると報酬が得られるという時間弁別課題を課している。前年度は前頭前野の活動を中心に調べたが、今年度は大脳基底核、特に線条体におけるニューロンの活動を遅延期間と刺激提示期間で記録した。ちなみに、線条体は前頭前野から入力を受け、視床経由で前頭前野とループ回路を形成しており、いろいろな認知活動において前頭前野と機能連関が議論されている脳領野である。遅延期間に関する実験の結果、D1ではC1の時間長に依存して発火頻度が変わるタイプが、D2ではC2の時間長に依存して、なおかつ、C2がC1より長かったかどうかにも依存するタイプが見付かった。線条体は時間長の符号化と比較過程に関わっていることが示唆される。次に、C2期間における線条体ニューロンの活動は3つのタイプが見付かった。まず、C2の開始から一定の遅延でバースト的な発火を示すタイプで、これらはC2の時間長を計っていると考えられる。第二に、C1の時間長に依存して発火頻度が変わるタイプで、C1の時間長を発火頻度として符号化していると考えられる。第三に、C2の開始から一定の遅延以降に持続的な発火を示すタイプで、そのときのC2が正解として反応すべき視覚刺激であることを符号化していると考えられる。このように、時間弁別課題において線条体は複数の機能的役割を果たしていることが分かった。研究成果を日本生理学会大会と日本神経科学会大会において発表した。
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