平成22年度は昨年度行った予備実験を踏まえて、快または不快感情を喚起する匂い刺激を提示し、セッション中の主観感情強度変化をノブ型装置により、また、生理指標として脳波を継時的に記録した。匂い刺激を呈示すると、主観的感情強度は刺激後30s程度まで上昇し、その後一定強度を保った。快不快による大きな違いはみられなかった。脳波については、左右差指数から不快条件のときに右前頭部が相対的に賦活することが示され、前頭部の感情側性化モデルの賦活パタンと一致した。さらに、左右前側頭部位間のコヒーレンスは、不快感情を喚起する匂い刺激呈示に伴い低下した。コヒーレンスの低下は部位間の関連性の低さを示すことから、不快条件では、刺激呈示に伴い左右前頭部のそれぞれが、より独自に機能している可能性があった。また、不快条件における特徴はゆらぎ係数においても確認できた。不快条件のゆらぎ係数は、その他の条件よりも大きく、従来のゆらぎのモデルを支持した。 次に、匂い刺激に代えて画像刺激を用いて実験してみると、感情状態に伴う前頭部の脳活動に左右差は確認できなかったが、刺激呈示開始直後のコヒーレンスやゆらぎ係数の変化が認められ、このことが刺激提示に伴う一過的な応答に対応したものと考えられた。さらに、感情喚起画像の提示時間操作し(60ms、600ms、6s、60s)、条件間で比較してみる実験を行った。主観評価では提示時間に関らず画像提示中は主観感情強度も一定の変化を示した。一方、生理指標ではどの条件でも画像提示に伴い一過的な覚醒反応が認められた後、緩やかに低下するといった定位反応と慣れの文脈が当てはまった。
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