仔ネコにシリンダーレンズゴーグルを装着して単一方位の視体験をさせると、視覚野において経験した方位に選択的に反応する領域が優位に広がり、この方位マップの可変性には感受性期があることがネコ視覚野の光学計測によって確認されている。当該年度は、LGN視覚野神経投射の自己組織化モデルのシミュレーションを実行して、単一方位の視体験を開始するタイミングが方位マップの変化にどのように影響を及ぼすかについて考察した。まず、視体験前の方位マップ形成をLGN細胞の自発的活動のみを仮定してシミュレーションを実行した。次に、視体験前にある程度形成された方位マップを初期状態として、15°間隔で12方位のグヒーティング刺激を呈示して正常視体験による方位マップ形成のシミュレーションを実行した。このとき、シミュレーションのステップ数の増加とともに最適方位の配列は規則性を増し方位選択性も高くなることから、従来の実験結果をよく再現することが確認された。さらに、特定のステップ数だけ正常視体験をさせることによって形成された方位マップを初期状態として、一定期間だけ単一方位視体験によるマップ再編のシミュレーションを実行した。その結果、方位選択性の平均値が上昇するにつれて、経験方位に選択的に反応するニューロン数の増加は小さくなり、長期の正常視体験によって方位選択性の上昇が飽和すると、単一方位視体験による方位マップの再編はほぼ消失した。この単一方位視体験による方位マップ再編のシミュレーション結果は、我々が以前に実施した、ゴーグル飼育をした仔ネコの視覚野から観察された方位マップめ定性的変化を極めてよく再現することが確認された。本モデルはグルタミン酸受容体のサブタイプであるNMDA受容体の電位依存性メカニズムに基づくものであり、視覚野方位選択性可塑性にはNMDA受容体が本質的な役割を果たしていることが示唆されたる。
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