研究概要 |
マルコフ連鎖モンテカルロ法(Markov chain Monte Carlo method : MCMC法)は,条件付分布からのサンプリングによる乱数を用いたモンテカルロ法であり,適用範囲の広い方法論である.しかしながら,サンプリングの局所性により,自己相関が高いことで分布の近似が悪い場合や,最適化法として利用した場合に局所解に陥るなどの問題点がある.今年度の研究では構造の複雑な多次元分割表を例にとり,サンプリングの大域化によって既存のMCMC法の近似精度を上回る方法の提案を行ない,論文公刊を行った.この論文の中では,自己相関係数や組み合せ計算により大域性の根拠を示し,近似精度に大域化が大きく寄与することを示した.さらに,最適化問題へ取り組むために,プログラミングを含め計算機環境を整えた.シミュレーション工学の実験に不可欠な過飽和実験計画の構成のための,プログラムに関するクラス設計や,単純なモデルでの実験結果を学会発表し,最適化問題への適用に関する基礎を築いた.また,大域化の理論評価のために予定している固有値分布論へも取り組み,第一段階として,固有値分布論に関する研究代表者のこれまでの成果をまとめ,今後の展望について論文寄稿と研究集会での発表を行った.以上の研究成果から,マルコフ連鎖モンテカルロ法が必然的にもつサンプリングの局所性を,ある程度大域化すれば精度がよくなることを検証できた.また最適化問題の例についても,今年度の成果を基に大域化の方法論を構築し数値シミュレーションの実験を続けている.さらに本研究全体の評価のための理論についても,固有値分布論を軸に順調に進んでいる.
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