本研究は、高感度で構造解析が可能な質量分析装置(MS)と液体クロマトグラフィー(LC)を組み合わせたLC/MSを使用して様々な細胞が発現する糖鎖を分析し、得られた発現糖鎖情報をマイクロアレイで培われたバイオインフォマティクス的手法を応用して各試料間のデータの統計学的データ解析を行って発現糖鎖パターンによる細胞の判別や診断等に応用する基礎技術を確立するとともに、様々な細胞の発現糖鎖をこの手法で解析して細胞機能と発現糖鎖の関連性を調べることを目的とする。 糖鎖は、核酸、タンパク質に続く第三の生命鎖と呼ばれ、発現が遺伝子に直接支配されない機能分子の一つとして細胞機能に重要な役割を発揮することが知られている。核酸やタンパク質鎖が直鎖状であることに対して、糖鎖は構成単糖が多様であること、結合位置・様式が多様であることに加え、分枝構造が存在するなど構造が非常に複雑である。細胞に発現する糖鎖発現パターンは細胞の種類によって異なることに加え、成熟やがん化に伴って複雑に変化するため、これら細胞の機能に何らかの役割を担っていると考えられているが、詳細については不明な点も多い。そのためこれまでゲノミクス分野で行われている網羅的な発現遺伝子解析と、細胞機能の関連を調べるようなバイオインフォマティクス的アプローチを発現糖鎖解析に応用することで、細胞の機能や働きと発現する糖鎖の機能解明に利用できる可能性がある。LC/MSは非常に高感度に試料中に含まれる成分をLCで分離しながら順次マススペクトルを取得する装置である。LC/MSから得られるデータは糖鎖の構造情報に加え、マイクロアレイのように非常に膨大な数の発現情報などが得られる。本研究では、様々な細胞の糖鎖をLC/MSで分析し、得られたデータをマイクロアレイで培われたバイオインフォマティクス手法で解析して細胞機能と発現糖鎖の関連性を調べる。
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