研究概要 |
近年の生理学的研究は,様々な刺激が神経ネットワークの時間的活動パターンで表現されていることを明らかにしてきた.しかしながら,時間パターンによる脳内情報表現が,どのような計算論的アルゴリズムによって生成され,どのように計算論的課題遂行に役立つか,は明らかにされていない.本研究の目的は,嗅覚情報処理に焦点をあて,脳型情報処理における時間次元を用いた情報表現の計算論的重要性を示すことである.21年度は一次嗅覚ネットワークにおける生理学的知見を説明する時間次元を用いた計算論的情報表現アルゴリズムとして「糸球体の活動強度順から出力神経の時間的活動順序への変換」を提案した.コンピュータシミュレーションにより,この計算論的アルゴリズムが,1)出力神経を,非線形特性をもつ素子でモデル化し入力強度にしたがって応答時間が短くなるように設定し,2)活性化された出力は糸球体モジュール間抑制を担う介在細胞により他の糸球体モジュールの出力神経が活性化されるのを一過的に遅らせるようにネットワークを構築し,3)糸球体モジュール内抑制を担う介在細胞により,出力神経活動のオフセットを適切なタイミングに設定する,ことで実現できることを示した.更に,一次嗅覚モデルで生成された発火順序を評価するには,2つの出力神経が特定の順序で発火することを検出する順序検出器を作り,すべての出力神経の組の発火順序を判定できるように高次中枢ネットワークを構築することで実現できることを示した.
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