研究概要 |
キイロショウジョウバエの嗅覚神経系では、発生中の触角原基において約400個の感覚器前駆細胞から約1,300個の嗅覚神経細胞が生じるが、これらは約50種類の異なる神経クラスに分化している。この多様な神経クラスを生み出す機構の一つとして、Runxファミリーの転写因子Lozengeの量に依存した感覚器前駆細胞のサブタイプ分化が、本研究代表者の以前の研究から示唆されている。本年度の研究では、(1)Lozengeの量に依存した感覚器前駆細胞のサブタイプ分化の仕組みを理解するため、Lozengeの発現の触角原基での空間的分布/経時的変化を解析した。その結果、Lozengeの空間的分布に領域差は検出できなかったが、その発現量が経時的に減少することが明らかとなった。さらに、Lozengeの発現量が多い発生初期に分化する感覚器前駆細胞はlozenge変異によって数が減少するものの、Lozengeの発現量が少なくなる発生後期に分化する感覚器前駆細胞はlozenge変異の影響をあまり受けないことが明らかとなった。したがって、感覚器前駆細胞のサブタイプの違いは、前駆細胞が分化する時期とその時期おけるLozengeの発現量が異なることに起因することが示唆された。また、(2)Lozengeの量の違いを感覚器前駆細胞のサブタイプの違いに変換する分子機構を解明するため、Lozengeの標的遺伝子群を解析した。その結果、候補遺伝子の一つ、核内受容体型転写因子をコードするseven-upが、嗅覚神経細胞を3つまたは4つ生み出すタイプの感覚器前駆細胞の細胞系譜において3つ目/4つ目の嗅覚神経細胞の分化に関わることを明らかとなった。この機能がLozengeによって直接制御されているかはまだ明らかでないが、この結果は、感覚器前駆細胞のサブタイプの違いと、その生み出す嗅覚神経細胞の数との関係を解明する糸口になると思われる。
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