研究課題
言語取得能力に代表されるようないくつかの学習能力は幼弱な時期に高く、その後は減弱していく。このように幼弱な時期に臨界期をもつ学習が、神経系の発生や可塑的変化によってどのように成立するかについて明らかにすることが本研究の目的である。そのために、ニワトリのヒナがみせる、学習・記憶行動の一つであり、生後間もない時期にのみ成立する視覚刺激による刷り込み行動(visual imprinting)を研究対象とした。これまでの研究から、刷り込み行動の成立には大脳皮質視覚野と類似性をもつvisual Wulst (VW)と大脳皮質連合野に相当する機能をもつといわれるintermediate medial mesopallium (IMM)の二領域が必須であることが明らかになっている。そこで、今年度はこの2領域をつなぐ神経回路の解明と刷り込み学習に伴うこの回路の機能的変化に焦点をあてた。1. VWとIMMを結ぶ神経回路について光学的神経活動記録による生理学的手法、さらにトレーサーを用いた解剖学的手法により、VWはHDCo及びHDPeと名付けた領域でシナプ界を介しIMMに情報伝達していることが明らかとなった。2. この回路と刷り込み行動の成立についてこの回路は孵化後1日目のヒヨコにおいてすでに機能しており、刷り込み学習が可能な臨界期中にはこの回路の働きは強く、さらに学習はこの回路の機能を増強することが明らかになった。さらに、この回路の増強にはHDCo領域の細胞の発現する、興奮性神経伝達物質のグルタミン酸に対する受容体のサブタイプの一つであるNR2Bの機能とその発現の増加が重要であることが示唆された。本研究は、幼少期の学習に伴って脳内の神経回路の増強がおきること、これにはNR2Bが重要であることを示唆しており、幼少期の学習の成立機序について新しい知見を提供するという意義をもつ。
すべて 2010
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Journal of Neuroscience 30
ページ: 4467-4480
Journal of Comparative Neurology 518
ページ: 2019-2034