研究の目的は、成長因子が情動を制御するメカニズムについて理解を深め、情動と神経新生との関係について調べようとするものである。平成21年度は、1)血管内皮増殖因子(VEGF)マウスにおける不安・恐怖・うつ様行動の減少について注目し、成長因子がどのようなメカニズムで情動を制御しているのか、その分子経路について解析した。まず、ストレス応答による血中コルチゾール量の増加を調べたが、野生型マウスと変化が見られず、VEGFは神経内分泌系に対しては作用していないことが示唆された。次に、情動と関係が知られているモノアミン系について注目し、脳内モノアミン量の解析を行った。その結果、VEGFマウスの脳において、ドーパミンには変化はなかったが、セロトニンとノルアドレナリンが減少していることが分かった。ノルアドレナリンの減少はこの動物における恐怖感の低下と関係していると思われる。一方、抗不安・抗うつ行動を示したVEGFマウスでは脳内セロトニンの上昇が予想されたが、結果は逆となっており、セロトニン量とうつ様行動は単純な相関関係にはなっていないと考えられる。また、2)セロトニン系やノルアドレナリン系の免疫化学的な解析を行い、脳切片を用いて作動性神経の同定や投射パターンの解析、さらにタンパク抽出液を用いて各種受容体の脳内発現について解析を行った(進行中)。組織標本においては概して野生型マウスと似通った染色結果が得られており、大差はないと考えられる。一方、受容体の脳内発現量については、ある種の受容体に顕著な変化が認められており、今後更なる確認が必要である。最後に、3)神経新生が情動の変化に影響があるかどうかを調べるため、放射線照射による神経新生の阻害実験を行った。生後10日齢のマウスの頭部にガンマ線10Gを照射したが、個体に対する影響が予想以上に大きく(生存個体数の減少)、条件もしくは方法の再検討が必要である。
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