本年度の研究に関しては、以前から継続している研究を含め、反復磁気刺激法のより効率的な刺激パラメーターの決定および遠隔部位に対する効果判定を行った。単調な連発刺激よりもリズムを付けた刺激法の方がより効果的に脳機能に影響を与えることが知られている。これに関連して、当研究室では4発の磁気刺激を一定のリズムをつけて10-30分間刺激すること(QPS : quadripulse stimulation)により、効果的に脳の活動性に影響を与えることを運動誘発電位の分析により証明した。4発の刺激間隔が5msの場合(QPS-5ms)は刺激部位を促通させ、刺激間隔が50msの場合(QPS-50ms)は抑制させることを示した。 左側一次運動野に対して2分間のQPS-5msまたはQPS-50msの刺激とその後3分間の無刺激状態を3回繰り返し、その間の右側大脳半球の脳血流の変化を近赤外線トポグラフィーで計測して平均加算した。結果は、QPS-5msもQPS-50msともに対側半球の活動性を抑制する作用を持つことが示された。即ち、磁気刺激中もしくは直後の短期効果と刺激後の長期効果とは全く異なる効果を持つことが判明した。また、QPS刺激中と刺激後における対側における体性感覚誘発電位を記録したところ、短期効果はQPS-5とQPS-50はともに促通効果を示したが、長期効果は2方向性を示した。連発磁気刺激法の短期効果と長期効果の双方を理解することにより効率的に治療効果を目指すことが可能となった。 また、磁気刺激直下の血流測定は、刺激時の微妙なコイルの動きにより、極めて困難であった。特に10分以上の計測を必要とする反復磁気刺激の影響を評価することは不可能であった。そこで我々は超軽量磁気刺激用コイルの開発と特殊な形状の近赤外線トポグラフィーのブローベホルダーを開発し、それを可能にした。この装置によりQPSによる刺激直下部の血流変化を測定し、磁気刺激効果の短期効果と長期効果を定量した。この装置の利用により、脳機能解析がより発展すると思われる。
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