研究概要 |
アデノシン受容体(receptor,R)は、A1R、A2AR、A2BRとA3Rに分類され,その中で、A1RとA2ARを介して、睡眠を調節することが報告されている。A1Rが活性化すると、コリン性の前脳基底核やヒスタミン性の結節乳頭核、オレキシン神経を抑制し、睡眠を誘発することは広く知られている。昨年、我々はノルアドレナリン性青斑核(locus coeruleus,LC)に選択的AIR作用薬であるN6-シクロペンチルアデノシン(CPA)を局所投与すると睡眠が誘発されることを発見した。一方、LCに選択的AIR拮抗薬である1,3-ジメチル-8-シクロペンチルキサンチン(CPT)を局所投与すると、覚醒が促進されることが判明した。免疫組織染色を行うと、LC内にA1Rが大量に発現することが認められた。これらの結果は、A1Rの活性化は、睡眠を増強することと、生理的睡眠の調節に関与していることを示すものである。しかし、A1R作動薬の脳内投与では、睡眠/覚醒に対する明らかな効果は認められない。そこで我々は、睡眠中枢と考えられる腹側外側視索前野(VLPO)のAIRを活性化すると、睡眠活性を持つ神経が阻害され、睡眠量が減少するのではないかとの仮説を立てた。 選択的A1R作用薬であるCPAをラットのVLPO内へ微小注入すると、自発的な睡眠覚醒中及び6時間断眠後の回復睡眠中におけるノンレム(non-REM,NREM)睡眠とレム睡眠の両方の顕著な減少が認められた。CPAを野生型マウスのVLPO内に局所投与すると、ラットの場合と同様の結果を得た。しかし、A1R欠損マウスの場合には、覚醒は全く認められなかった。一方、選択的A1R拮抗薬であるCPTをラットのVLPO内に微小注入するとノンレム睡眠とレム睡眠が両方とも増加した。免疫組織化学染色の結果、A1RがVLPO内に僅かに発現することが判明した。これは、アデノシンがVLPOのA1Rを介して睡眠覚醒の自発的及び恒常的制御を意味づけた最初の研究である。この研究結果は、これまでのA1Rが睡眠を誘発するという通説を覆し、VLPOのA1Rは覚醒の維持に関与することを証明した結果である。
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