研究概要 |
新規の脳ペプチド、relaxin 3(RLN3)/insulin like peptide 7(INSL7)の生理機能探究のために、RLN3のエクソン1,2をlacZ遺伝子とネオマイシンカセットで置換した遺伝子ノックアウト(KO)マウスを作製した。8回のバッククロスを経てRLN3遺伝子両端近傍のサテライトマーカー2つがC57系に置換したマウスを用いた。KOマウスでは遺伝子およびタンパク質発現が脳内に見られないことを組織化学で確認した後行動解析を行った。KO、およびヘテロマウスは野生型とほぼ同じ体重増加を示し、1年半までは正常に飼育でき寿命も野生型と差がないように見えた。一連の行動解析バッテリーによる検索では、自発行動量、social interaction, hot plate test,fear conditioning test,強制水泳試験でKOマウスは野生型と有意差が見られなかった。不安状態検索で、open fieldや明暗試験では差がないものの、高架式十字迷路では有意にopen armでの滞在回数と滞在時間がKOマウスでは長く、軽度の抗不安様行動を示した。RLN3はこれまでの実験から急性期のストレス応答に関与すると考えられる。RLN3を脳室内投与すると、視床下部室傍核でCRF発現細胞にc-Fosが誘導され、CRF mRNA自身も発現が増加し、さらには血漿ACTHも増加することを報告した(Watanabe et al, J Mol Neuroscsi,2010)。CRFは脳内で増加するとCRF-R1受容体を介して不安を増強することが知られているので、RLN3 KOマウスはCRFを介した不安応答が軽減されているのかも知れない。これらの行動解析の結果をまとめて現在Front Behav Neurosci誌に投稿中である。また、これまでのRLN3に関する我々のデータを中心にしてストレス、摂食関連タンパク質としてFEBS Journal誌へ総説を発表した(Tanaka M, FEBS J, 2010)。さらに京都で3月末に国際内分泌学会が開催されたが、そのサテライトシンポジウムとしてNeuroendocrine Functions of GPCRs(GPCR2010)を主催して、RLN3についてのこれまでの成果をまとめて発表した。
|