これまでの研究で、げっ歯類大脳皮質形成後期過程における神経細胞産生過程において、脳室帯に直接由来する神経細胞は脳室帯の直上にあるmultipolar cell accumulation zone(MAZ)に留まること、一方、脳室帯から移動を開始して、さらに分裂して産生される集団は、MAZを飛び越えて中間帯に広く分布することを明らかにした。前者はslowly exiting population(SEP)、後者はrapidly exiting population(REP)と呼ぶ。本研究課題は、このような両者の細胞運命の違いと、その移動制御機構の解明を目標とする。平成21年度は、多極性細胞がMAZに留まるために必要と報告されたDLKに関して機能解析を行った。特にMAZは軸索を伸ばし始める場所でもあるので、軸索伸展に関して解析を行った。DLKタンパク質は広範囲の軸索束に発現が認められ、またDLKのノックダウンベクターを導入した神経細胞の初代培養において、軸索伸展の障害が観察された。本年度はまた、REP内での細胞動態に関して詳細な観察を行った。その結果、REPには移動方向を頻繁に変えながら早く移動する集団の存在に気付いた。移動方向はランダムに見えるため、この移動様式を不軌道性移動と呼ぶ。これらの細胞は比較的丸い形態を持ち、興味深いことにその移動過程で分裂を伴い、分裂後もさらに同移動様式をとって拡散する。REPの細胞は主にNeuroD陽性の神経細胞であるが、グリア前駆細胞のマーカーであるOlig2陽性細胞も含み、この不軌道性移動細胞との関連が示唆された。
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