申請者等は、げっ歯類大脳皮質形成後期過程における神経細胞産生過程の詳細な観察から、脳室帯に直接由来する神経細胞は脳室帯の直上にあるmultipolar cell accumulation zone(MAZ)に留まること、一方、脳室帯から移動を開始して、さらに分裂する集団は、MAZを飛び越えて中間帯に広く分布することを明らかにした。前者はslowly exiting population(SEP)、後者はrapidly exiting population(REP)と呼ぶ。本研究課題は、このような両者の細胞運命の違いと、その移動制御機構の解明を目標とする。昨年度までの研究から、REP内には特殊な移動様式をとる細胞が含まれることを明らかにした。これらの細胞は頻繁に移動方向を変えながら速い速度で移動するため、この移動様式を不軌道性移動と呼ぶ。22年度はこの細胞の性状に関して検討を行った。REP内には、SEPがMAZからCPへ向かうときと同様の脳表層側へと向かう直線的な移動様式をとるもの(放射方向移動)と、不軌道性移動をとるものが観察された。タイムラプス観察により不軌道性移動細胞を確かめた後、免疫染色した結果、Olig2陽性となるものが存在した。一方、放射方向移動する細胞ではそのような例は無かった。また、最終分化運命を確かめるため、UVレーザーで緑から赤に蛍光が変化するkikGRを用いた解析を行った。タイムラプス観察で、不軌道性移動を示したもの、および放射方向移動を示したものをそれぞれUVレーザーで赤蛍光に印を付け、5日間分散培養し、分化マーカーで染色した。その結果、放射方向移動した細胞はほとんどが神経細胞へ分化したが、不軌道性移動を示した細胞からはアストロサイトのコロニーを形成した。このことから、不軌道性移動細胞がグリア前駆細胞であることが強く示唆された。
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