研究概要 |
本研究は慢性虚血による白質障害と認知機能障害のメカニズムに関して,抗酸化ペプチドであるアドレノメデュリン(AM)を標的分子として酸化ストレス,高血糖,インスリン抵抗性の病態との関連を解明し,ペプチドを利用した防御法の確立を目標として立案した.初年度は野生型ラットとマウスおよびアドレノメデュリンノックダウン(AM+/-)マウスの慢性脳低灌流モデルを用いて,AMおよびその受容体の脳内における変動を比較検討することを目的とした. 既に開始していたAM+/-マウスでの急性期脳梗塞モデルの検討を進めた.その結果では野生型マウスに比較してAM+/-マウスでは,脳梗塞体積が有意に増大することを見出した.さらにAM+/-マウスでは梗塞周辺部での脂質過酸化代謝産物蓄積と酸化的DNA障害が増強していることを明らかにした.脳虚血下においてAM+/-マウスでは,cAMPとproteinkinase A(PKA)が野生型に比べ有意に低下することを確認した.以上のことからAMはcAMP-PKAシグナル伝達系を促進することで酸化ストレスを制御しており,特に脳虚血下でAMが欠損した状況では酸化ストレスが増強し,脳梗塞が進展・増悪することを明らかにした.以上の結果については,Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism誌に報告し掲載された. また,マウスにおける両側総頸動脈の特殊なコイルを用いた閉塞による慢性脳低灌流モデルを確立し,白質障害の評価を開始した.我々が既に確立しているラットにける慢性脳低灌流と同様に,虚血開始後14日から28日にかけての白質障害の進展,およびオリゴデンドロサイトの脱落と酸化ストレスおよび炎症反応の増悪を確認した.さらに現在AM+/-マウスの慢性脳低灌流モデルを作成し,白質障害の評価を開始している.
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