研究概要 |
本研究は慢性虚血による白質障害と認知機能障害のメカニズムに関して,抗酸化ペプチドであるアドレノメデュリン(AM)を標的分子として酸化ストレス,高血糖,インスリン抵抗性の病態との関連を解明し,ペプチドを利用した防御法の確立を目標として立案した.平成22年度はマウスにおける両側総頸動脈の特殊なコイルを用いた閉塞による慢性脳低灌流モデルを確立し,白質障害の評価を開始した.アドレノメデュリンノックダウン(AM+/-)マウスの慢性脳低灌流モデルを作成し,白質障害の評価を行った. その結果では野生型マウスに比較してAM+/-マウスでは,脳虚血後経時的にオリゴデンドロサイトが減少する傾向をみとめ,白質障害(脱髄,軸索障害)が有意に発症・進展することを見出した.さらに,AM+/-マウスでは大脳白質での脂質過酸化代謝産物蓄積と酸化的DNA障害が増強していることを明らかにした.炎症性マーカーであるiNosの免疫染色の結果,野生型では虚血早期の血管内皮に発現を認め,時間経過とともにグリア細胞にも軽度の発現を確認した.一方AM+/-では血管内皮細胞のみならずグリア細胞系にも虚血後早期から大量に発現することを確認した.さらにAM+/-は野生型に比べてCD31陽性の血管内皮細胞が減少傾向にあり,AM+/-マウスでは慢性脳低灌流状態においての血管新生能が障害されていることが示唆された. 以上のことからAM欠損は慢性脳低灌流における酸化ストレス,炎症反応を増強し,虚血性白質障害を有意に増強させることを明らかにした.今後は虚血侵襲に保護的に作用するAMを増加せせるために,細胞内シグナル伝達を活性化する薬剤の探索を進め,AMの最も有用な補充法も検討する.
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