研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)と前頭側頭葉変性症(FTLD-U)は神経細胞内ユビキチン化封入体を共通する病理学的所見とする。ユビキチン化封入体の構成蛋白としてTAR DNA-binding protein 43kDa(TDP-43)が2006年に同定され神経細胞変性機序の解明の手がかりとして期待されている。平成21年度はTDP-43がALSの病態にどの程度の頻度で関与しているのか、またkey proteinとして重要性の程度を明確にする目的で、現在愛知医科大学加齢医科学研究所にあるALS、認知症を伴うALS-Dの連続剖検例にTDP-43免疫染色を施行した。また凍結脳が保存されている症例に関してはwestern blotとTDP-43点変異を検索した。現在約50例の解析がすすんでいるが、ALSのごく初期例から20年以上にわたる長期例にまで孤発性ALSの約90%にTDP-43陽性封入体の出現を認めた。従って孤発性ALSの病理診断指標として,TDP-43陽性封入体の有無は重要であること、また大部分の孤発性ALSではTDP-43陽性封入体形成過程を共通経路とする細胞内、核内の異常がおきていることが確認された。 さらにわれわれは認知症を伴うALSを含む家族性ALSの1家系ににTDP-43点変異(G298S)を見いだした。臨床的には認知症を伴うALSの臨床像を示し病理学的には下位運動ニューロンと側頭葉前頭皮質に多数の神経細胞内封入体NCIを認めFTLD-U type 2の病理像を示しTDP-43点変異による早期の凝集亢進が示された。TDP-43点変異は現在世界で30種類報告されているが、病理像が確認されているものは数例にすぎず、きわめて貴重な成果である。また遺伝子変異によるTDP-43凝集亢進が示唆されて今後の病態解明の手がかりになると期待される。
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