てんかんを惹起する様々な要因を多岐に渡る神経系抗体および特殊染色によって病理組織学的に探索している。今年度はパイロット検索を行なっている過程で脳組織における鉄の暴露、およびそれによるアストロサイトの形態異常に遭遇し、主に頭部外傷後てんかんの脳外科焦点切除検体を用い検討した。このような焦点部は受傷後しばらく時間が経過してからてんかん原性を獲得するわけであるので、発症までの期間中に神経可塑性の異常が惹起されていると考える。頭部外傷後の海馬において鉄イオン陽性の微細顆粒の沈着、およびアストロサイト細胞体内への蓄積が認められ、加えて歯状回顆粒細胞の乖離現象(dispersion)を伴う定型的な海馬硬化を生じていた。陳旧性脳挫傷の周辺でも同様の鉄沈着に加えて、アストロサイトの特殊な形態異常であるfoamy spheroid bodyが多数形成されており、グリア型興奮性アミノ酸トランスポーターの表出異常が確認された。これらの外傷後てんかん原性領域においては、アストロサイトの鉄過剰蓄積が生じていることが明らかとなり、また、それによるアストロサイト機能異常が本来の役割(アミノ酸トランスポーターを介するエネルギーリサイクル)が破綻し、神経細胞の過剰興奮が引き起こされていることが示唆された。今年度の探索研究により、鉄過剰暴露によるアストロサイトの機能異常が背景にあると想定されている疾患群(ニューロフェリチノパチー、無セルロプラスミン血症による脳障害など)に、鉄起因性てんかんが新たに追加されるべきであることを明らかにした上で重要な成果であると思われる。
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