研究概要 |
恐怖消去にepigeneticな転写調節が関与しているかを明らかにするため、恐怖消去に伴うDNAメチル化の差異の網羅的スクリーニングをマウス脳において行い、C57BL/6Jマウス(7-8週齢、オス)を用い、恐怖条件づけ後と消去後において、SAGEとmicroarray、メチル化アレイを用いた遺伝子解析を行った。消去後で、56の遺伝子で転写調節の変化がメチル化の変化と関連していることを見いだした。今後、さらに検討を進める。 また、NMDA系の学習成立の役割と同時にセロトニン系のストレス反応の情動制御の役割の連携が恐怖消去の成立に重要という仮説のもと、C57BL/6Jマウスにおいて、NMDA系のD-セリンが恐怖消去の促進作用を有することを示し(Matsuda et al., revised submission)、抗うつ薬として市販されている選択的セロトニン再取込阻害薬パロキセチンやフルボキサミンが恐怖消去の促進作用を有する可能性を示した(Ohba et al., in preparation)。一方、ヒトにおいて、健常コントロール群と強迫性障害患者群との間で、条件づけられた恐怖の消去過程において、感覚ゲート機構である聴覚誘発電位P50抑制の正常化が遅延する所見を発見した(Nanbu et al., 2010)。また、ヒトの恐怖条件づけと感覚ゲート機構の関連の研究からの推測で、マウスにおいて、感覚運動ゲート機構であるプレパルス抑制が、恐怖条件づけによって、増強し、恐怖消去によっても回復しないことを発見した(Ishii et al., 2010)。これらの結果から、恐怖条件づけと感覚ゲート機構および感覚運動ゲート機構に何らかの関連性が示唆された。
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