研究概要 |
1.メチルドナー欠乏食による脳内DNAメチル化変化のもたらす行動変化とその基礎的基盤について 出生後に受けるメチル化変化を制限するために、メチル化反応に使われるメチルドナー(メチオニン、コリン、葉酸)を欠乏させた食事マウス生3-6週に与えて(メチルドナー欠乏群)、発達期=小児期にDNAメチル化変化をもたらされるモデルとして使用した。このメチルドナー欠乏群が、成長後(生後12週)の恐怖や不安反応に普通食群との変化をもたらすかを恐怖と不安を測定する実験パラダイムを用いて検討したところ、(1)恐怖条件付けによる恐怖反応は両群で同等、(2)恐怖消去はメチルドナー欠乏群が速い、(3)広い空間に不安を覚えるマウスの習性を利用したOpen field試験において、メチルドナー欠乏群が不安の少ない反応、を得た。この結果の、特に(2)と(3)は当初の推定(メチルドナー欠乏群が普通食群に比べて恐怖や不安に対する感受性が高く、治療反応性が悪い)と逆で、意外であった。メチルドナー欠乏食による、発達期に起きたDNAメチル化の再編成に原因があると考えるが、恒常的な変化かは定かではない。 さらに、マウス扁桃体、海馬のNMDA受容体サブユニット(NR1,2A,2B)の発現解析により、扁桃体NR2Bサブユニットの発現が、メチルドナー群で対照群に比して有意に低い結果を得た。これにより、メチルドナー欠乏食による、発達期に起きたDNAメチル化の再編成は行動と、その基盤としてのNMDA受容体発現変化をもたらすと考えられた。 2.人における古典的恐怖条件付けと恐怖消去によって変化する聴性誘発電位P50の変化について。 健常者において、安全でない信号条件で、P50抑制が弱まる一方で、安全条件ではそのような変化が見られなかったことにより、恐怖条件付けと恐怖消去において、P50抑制の変化(=感覚ゲート機構の変化)がもたらす一定の役割を確認できた。
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