(1)今年度はフェニルチオシクロペンテノン誘導体投与によるマウス脳グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)の発現解析を行う計画であった。GIF-0642はこれまで合成したシクロチオシクロペンテノン誘導体の中では最も強力にC6細胞の種々の神経栄養因子の発現を増加させた。そこでGIF-0642をマウスの腹腔内に投与し、RT-PCR法によりGDNF並びに脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)の発現に及ぼす影響を検討した。しかし、マウスの腹腔内投与ではGIF-0642は脳のこれら神経栄養因子の発現に影響しなかった。今後、化合物の投与量、溶剤の種類、投与法などの検討を要する。GIF-0642のリード化合物であるNEPP11は腹腔内投与により脳へ移行することが報告されているので、NEPP11との比較も並行して行う必要があると考えられる。 (2)脳虚血マウスモデルの作製を試みた。実験動物専用ガス麻酔システムを用いることにより安定した麻酔下で手術を行うことが出来た。TTC染色により梗塞ができたことを確認したが、安定した結果を得るにはさらに手技の訓練が必要である。 (3)GIF-0642の作用機構を解明するために、C6細胞を用いてMAPキナーゼなど生存に係るシグナル分子のリン酸化を解析した。GIF-0642はMAPキナーゼ経路の種々のキナーゼのリン酸化を亢進した。GIF-0642の標的分子を明らかにする目的で、ビオチン化GIF-0642を合成しpull-downアッセイ法によりGIF-0642がMAPキナーゼ経路のシグナル分子に結合するかどうかを検討した。その結果Rafに化合物が直接結合していることが示唆された。今後、Rafの細胞内局在をビオチン化化合物の細胞免疫染色法により検討する予定である。
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