研究概要 |
本研究の目的は、中枢神経系(CNS)で産生される低分子ガス状メディエータの生成・受容機構を探究し、ガス分子による脳局所血流調節のメカニズムを解明することである。NO、CO、H_2Sは細胞機能を調節するガスメディエータとして知られているが、これらのガス分子の生体高分子による受容機構の全貌は明らかにされていない。マウス肝臓組織を用いた先行研究の結果から、transsul furation経路の律速酵素であり、H_2Sの主要生成酵素であるcystathionine β-synthase(CBS)がheme oxygenase(HO)によって産生されるCOの特異的受容体として同定された(Shintani et al.,Hepatology 2009)。一方、脳は恒常的にCOを構成型酵素であるHO-2から生成しているが、COの脳における生理作用は不明であった。HOが分子状酸素を基質としてCOを生成する酸素添加酵素であることを鑑み、脳が低酸素に晒された際にCOが低下することにより局所血流制御をするという仮説の検証を試みた。小脳の生スライスを95% O_2,5% CO_2でバブリングしたartificial cerebrospinal fluid(ACSF)を灌流させたチャンバーに入れ、これを定常酸素状態とし、その灌流液を95% N_2,5% CO_2でバブリングしたACSFに切り替えることで低酸素状態とした。その結果、HO-2あるいはCBSの欠損マウスの系では低酸素による血管拡張反応が略完全に消失した。野生型マウスの脳細動脈は定常時と比較して約66%拡張したが、CBS KOマウスではこの低酸素性の血管拡張は有意に減弱した(34%)。また小脳ではHO-2は神経細胞、CBSはアストロサイトに局在して発現していること、HO-2欠損マウスではCO生成が、CBS欠損マウスではH_2S生成の基質となるcystathionineが著減していることが明らかになった。以上のことから神経細胞への酸素供給の低下が起こると、同細胞でのCO生成の低下として変換され、パラクリン的にアストロサイトのCBS抑制を解除し血管拡張作用を有するH_2Sが増加することによって、局所の細動脈の拡張が起こることが示唆された。これらの結果から、HO-2とCBSは脳微小循環におけるhypoxia-induced vasodilatationにおいて重要な役割を担う可能性が示唆された。
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