研究課題
本研究の最終目標は、中枢神経系(CNS)で産生される低分子ガス状メディエータの生成・受容機構を探究し、ガス分子による脳局所血流調節及び代謝リモデリングのメカニズムを解明することである。脳ではneuronに局在するhe皿eoxygenase(HO)-2により、マイクロモルレベルの一酸化炭素(CO)が産生されることが分かっていたが、COの生理学的な意義は不明だった。我々は、COを受容する蛋白質としてcystathionineβ-synthase(C8S)に着目した。CBSはastrocyteに高発現しており、血管拡張作用のある硫化水素(H_2S)を生成していること、脳では正常酸素時にはCOがCBSを恒常的に抑制することによってH2Sの産生量が抑制されているため血管が収縮した状態にあることが分かった。脳皮質においては、neuronに局在するHO-2は脳実質組織の酸素センサーとして機能し(0_2に対するKm=35μM)、CO-C8S経路とリンクして、低酸素時に脳実質細動脈を秒オーダーで拡張させる即効型・可逆的な多元的ガス依存性シグナリングを形成していることを発見した(PNAS,109,1293,2012)。さらに、基礎CO量が野生型の約半分のHO-2欠損マウスを用い、代謝物の分布と局所濃度を網羅的にイメージングできる質量顕微鏡の技術により、エネルギー代謝物の動態を検証した。その結果、驚いたことにHO-2欠損マウスの脳は、正常酸素下では野生型よりATPレベルが高いことが明らかになった。ところが一旦低酸素になると、HO-2欠損マウスのATPは極端に低下するのに対し、野生型のマウスではほぼ完全に維持されることが判明した。酸素が低下するとCOの低下が齎され、H_2Sの増加が起こり、血管拡張が起こるという情報伝達経路の発見は、ガス分子が代謝システムを精妙に制御することの証左ともなった。
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