学習記憶や恐怖の保持や消去といった脳の高次機能における神経細胞特異的セリン・スレオニンキナーゼCyclin-dependent kinase 5 (Cdk5)の機能を、活性化サブユニットp35のコンディショナルノックアウト(KO)マウスを作製し、空間学習課題や恐怖条件付け課題などの行動解析、電気生理学的解析、生化学的解析を行なう事で明らかにする事を本研究の目的としている。H21年度に作成を行なった、CreERTMマウスを用いた誘導型コンディショナルKOマウスについて、今年度は、40H-タモキシフェン投与後の遺伝子欠損誘導をp35タンパク質量の低下で確認した。現在行動解析に向けて準備を行なっている。また、誘導型コンディショナルKOマウスに加えて、海馬及び小脳プルキンエ細胞特異的なコンディショナルKOマウスをCaMKII-creマウス及びL7-creマウスを用いてそれぞれ作成した。これらのマウスの脳組織をウエスタンブロット法で解析して、領域特異的なp35タンパク質量の低下をそれぞれ海馬と小脳で確認した。これらのマウスの行動解析の準備も現在進めているところである。 本年度に計画していたAlzheimer病モデルマウスとの交配については、現在保持しているAPP/PS1 double Tgマウスではアミロイド病変が顕著であるものの、Cdk5の影響がより明らかであるタウタンパク質リン酸化の異常が少ないことから、今後は変異タウタンパク質高度発現型のモデルマウスに対して、p35の喪失の効果を検討すべきと考え準備を開始した。また本研究と関連して、Cdk5のコンディショナルKOマウスにおいて、ミエリン形成の異常を見出し、これがオリゴデンドロサイトの分化の障害により起こることを報告した。
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