研究概要 |
我々はすでに血管血球系幹細胞の投与が脳梗塞後の神経再生を介して神経機能を改善し((J Clin Invest, 2004)、またその再生神経が大脳皮質に由来する障害誘導性神経幹細胞であること(Eur J Neurosci, 2009)、さらに血管内皮細胞が幹細胞ニッチとしてこの神経幹細胞の生存を左右することを見出している(Stem cells, 2009)。本研究においては、内因性神経幹細胞の生着・成熟に必要な微小環境に関して、新生血管網を含む幹細胞ニッチに焦点を当て、神経幹細胞の機能のための必要十分条件に関する知見の収集を行うことを目的としている。本年度は、傷害誘導性幹細胞を用いて骨髄単核球と血管内皮細胞、神経幹細胞間の分子機構を明らかにするとともに、脳生理学的指標に及ぼす効果も検討した。 その結果、in vivo神経再生評価系を用いた解析では、内皮細胞増殖抑制因子やアンギオテンシンが内皮細胞増殖を抑制して内因性神経幹細胞増殖・分化を抑制すること、in vitro神経再生評価系を用いた解析では、骨髄単核球が血管内皮細胞由来のFGF, EGF, IGF, PDGFの産生を亢進させ幹細胞維持の制御に関わることなどを明らかにした。さらに、骨髄単核球の投与により、脳梗塞作成後の大脳皮質血流が有意に増加し、脳機能改善に貢献することも判明した(Stem Cells, 2010)。以上のことから、骨髄単核球を脳梗塞後に投与すると、脳梗塞部位の血管内皮細胞の増殖・活性化を介して内因性神経再生が亢進し、結果として神経機能が改善することが示唆された。今後は、いかなる神経機能が改善し、その基盤となる神経回路回復およびその機序を明らかにする必要があると思われる。
|