個体発生の過程において、中枢神経系を構成するニューロン群が神経回路網を形成していくプロセスは、神経系の機能的構築を理解する上で、最も基本的な問題点の一つである。脊髄は、中枢神経系の中では比較的単純な細胞構築からなるが、機能的には、脊髄神経を介する入力と上位中枢からの入力、さらにcentral pattern generator(CPG)と呼ばれる脊髄内在歩行リズム中枢からの自発興奮が、複雑に絡み合い・統合されている極めて高度な機能構造体である。この脊髄の機能形成過程について、これまでの研究は、後根や延髄を刺激したときの応答、あるいは自発興奮活動を、前根からの集合電位(または電流)として記録する方法が主流で、脊髄内でのニューロン活動パターンそのものについては、通常black boxのまま議論されてきた。これは、発生初期の脊髄を構成する神経細胞が小さく脆弱で、微小電極を適用することが困難であるばかりでなく、従来の電気生理学的測定法では、標本内の多数領域からニューロン応答を同時記録しその機能マッピングを行うことが不可能であったことが原因と考えられる。本研究では、従来の膜電位感受性色素に加えて、新しい疎水性色素を用いた選択的染色法を組み合わせて、脊髄神経・上位中枢などからの複数の入力、出力パターンが、個体発生とともにどのように形成されていくのかを明らかにする。さらに、CPGの自発活動のマッピングを同時に行い、刺激によって誘発されるニューロン活動と、自発興奮によって生じるニューロン活動との相互作用について、中枢神経系内における情報処理という観点から、その発達のプロセスを明らかにする。本年度は、脊髄神経刺激により誘発される光学的シグナルの波形解析を行い、活動電位やシナプス応答に対応する成分を同定した。
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