研究課題/領域番号 |
21500372
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
森 正弘 神戸大学, 保健学研究科, 准教授 (60294203)
|
キーワード | 海馬 / 苔状線維 / 神経回路 / 可塑性 / LTP / 記憶・学習 |
研究概要 |
記憶の鍵となる脳部位である海馬、CA3野錐体細胞の苔状線維シナプスにおいて、学習に関連した細胞レベルのモデルと考えられている長期増強現象(LTP)の特性を明らかにすることは、記憶のメカニズムを理解する上で大変重要である。本年度は、単一苔状線維刺激と多数の苔状線維刺激の機能的な相互作用を調べることを目標として、研究を行った。培養海馬切片を用い、歯状回に細胞外刺激電極を設置した後、シナプス後細胞となるCA3野錐体細胞からパッチクランプ全細胞記録を行い、次に歯状回顆粒細胞層を高濃度カリウム内液で満たしたパッチ電極でシステマチックに走査することにより、連絡顆粒細胞を同定、パッチクランプ記録し、連絡した顆粒細胞―CA3野錐体細胞対の記録を行った。そして、単一顆粒細胞にLTP誘発のためのプロトコール(100Hz 1秒間を10秒毎に3回)で活動電位を惹起し、同時に、細胞外刺激電極により同様のLTP誘発プロトコールで他の複数の顆粒細胞に刺激を与えた後、CA3野錐体細胞から単一顆粒細胞刺激により記録されるシナプス応答の変化をモニタし、単一苔状線維‐CA3野錐体細胞シナプスでの可塑性が修飾を受けるか調べたところ、単一苔状線維刺激によるシナプス伝達が増強される傾向が認められたため、平成23年11月より、新たに最小細胞外刺激法の標準的なプロトコールを用いた追加実験を行った。当初、最小細胞外刺激法による苔状線維シナプス伝達も増強する傾向であったが、平成24年6月末(3ヶ月延長)までの追加実験では、有意な差を得るには至らなかった。以上のことから、単一苔状線維‐CA3野錐体細胞シナプスでの可塑性は、他の苔状線維シナプスでの可塑性誘発により修飾を受けない可能性が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、予定されたスケジュールを延長して、実験を行い、より多くのデータを取得することができ、本年度の目的は100%達成された。当初の計画の中で、今年度までに、苔状線維LTP誘発刺激の必要条件、苔状線維終末間の協力作用を仲介する拡散因子、単一苔状線維刺激と多数の苔状線維刺激の相互作用に関するデータが蓄積されている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度までの成果を踏まえ、次年度は苔状線維シナプスLTPの誘発に、フィードフォワード抑制がどのような役割を演じているのかを解析する。海馬において、介在ニューロンの数は全海馬神経細胞の約1割に過ぎず、多くの錐体細胞は共通の介在ニューロンからフィードフォワード抑制入力を受けている可能性があり、フィードフォワード抑制入力の動員は、活性化する苔状線維の数が増すほどは増大しないことも考えられる。そこで、単一顆粒細胞を刺激した際のフィードフォワード抑制増大の程度と複数の顆粒細胞を刺激した際のフィードフォワード抑制増大の程度に差がないか実験・解析を行う。
|