研究課題/領域番号 |
21500372
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
森 正弘 神戸大学, 保健学研究科, 准教授 (60294203)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 海馬 / 苔状線維 / 神経回路 / 可塑性 / LTP / 記憶・学習 |
研究概要 |
記憶の貯蔵と消去の鍵となる部位である脳海馬、CA3野錐体細胞の苔状線維シナプスにおいて、学習に関連した細胞レベルのモデルと考えられている長期増強現象(LTP)の特性を明らかにすることは、記憶のメカニズムを理解する上で大変重要である。本年度は、LTPの誘発する高頻度刺激の際に、フィードフォワード抑制がどのような役割を果たすのかを追求することを目標として、研究を行った。実験標本としては、ローラーチューブ法に基づく培養海馬切片を用いた。本培養脳切片標本では海馬歯状回やCA3野の構造がよく保たれ、また、急性脳切片標本に伴う、多くの神経軸索路が切断されているという問題から無縁である。シナプス後細胞となるCA3野錐体細胞からパッチクランプ全細胞記録を行い、次に歯状回顆粒細胞層を高濃度カリウム内液で満たしたパッチ電極でシステマチックに走査することにより、連絡顆粒細胞を同定、パッチクランプ記録し、連絡した顆粒細胞―CA3野錐体細胞対の記録を行った。単一顆粒細胞にLTP誘発のためのプロトコール(100Hz 1秒間を10秒毎に3回)で活動電位を惹起し、その後、CA3野錐体細胞から記録される応答の抑制性成分をモニタすると、一過性に抑制性成分の増大が認められた。一方、歯状回に細胞外刺激電極を設置した後、CA3野錐体細胞からパッチクランプ全細胞記録を行い、細胞外刺激電極により複数の顆粒細胞に同様のプロトコール(100Hz 1秒間を10秒毎に3回)で刺激を与えたところ、CA3野錐体細胞から記録される応答の抑制成分増大が認められ、それは、単一顆粒細胞を刺激した際の増大の程度と差は認められなかった。苔状線維回路出力において、高頻度入力後のフィードフォワード抑制増大に抑制性介在神経細胞が動員されるメカニズムは、刺激される苔状線維の数には依存しない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、予定されたスケジュールに沿ってデータを取得することができ、順調に100%達成された。当初の計画の中で、今年度までに、苔状線維LTP誘発刺激の必要条件、苔状線維終末間の協力作用を仲介する拡散因子、単一苔状線維刺激と多数の苔状線維刺激の相互作用、そしてLTP誘発におけるフィードフォワード抑制の役割に関するデータが得られている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの成果を踏まえ、次年度は、CA3野錐体細胞における苔状線維シナプス伝達効率の変化と介在神経細胞における苔状線維シナプス伝達効率の変化とで、その特性に違いがあるかを、単一苔状線維刺激および複数の苔状線維刺激によるデータを記録、解析し海馬苔状線維シナプス可塑性のメカニズムに迫る計画である
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