研究概要 |
記憶・学習の鍵となる脳海馬CA3野の苔状線維シナプスでの、長期増強現象(LTP)のメカニズムを明らかにすることは、大変重要である。本年度は、CA3野錐体細胞における苔状線維シナプス伝達効率変化と介在神経細胞における苔状線維シナプス伝達効率変化の特性に違いがあるかを、単一苔状線維刺激および複数の苔状線維刺激によるデータを記録、解析し、海馬苔状線維シナプス可塑性のメカニズム解明を目標として、研究を行った。実験標本としては、ローラーチューブ法に基づく培養海馬切片を用いた。CA3野錐体細胞(あるいは介在神経細胞)のパッチクランプ全細胞記録を行い、次に連絡顆粒細胞を「pottassium puff search 」(Mori et al., Nature 2004)によりパッチクランプ記録し、連絡した顆粒細胞―CA3野錐体細胞(あるいは介在神経細胞)対の記録を行った。単一顆粒細胞にLTP誘発のためのプロトコール(100Hz 1秒間を10秒毎に3回)で活動電位を惹起し、その後、CA3野錐体細胞から記録される興奮性シナプス後電流(EPSC)をモニタすると、CA3野錐体細胞あるいは介在神経細胞、どちらの場合もLTP誘発刺激直後はEPSCの増大が認められたが、それらは一過性の増大であり、LTP誘発刺激後30分には刺激前の大きさに戻った。次に、歯状回に設置した細胞外刺激電極により複数の顆粒細胞に同様のプロトコール(100Hz 1秒間を10秒毎に3回)で刺激を与えたところ、CA3野錐体細胞から記録されるEPSC増大が認められ、それは、LTP誘発刺激後30分後も認められた。刺激電極による複数の苔状線維刺激では、抑制性介在神経細胞にLTPが誘発されないことが示されている(Maccaferri et al., 1998)。以上のことから、顆粒細胞から、苔状線維を介してCA3野錐体細胞と抑制性介在神経細胞にシナプス伝達されるが、高頻度入力時、それらは協力的に、総じて苔状線維回路出力として興奮性信号を促進する可能性が示唆された。
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